主介護者が知っておくべき3つの権利【扶養請求権・寄与分・特別寄与料】
親の介護を中心的に担う「主介護者」が知っておくべき法的権利を3つに絞って解説。扶養請求権、相続時の寄与分、特別寄与料の具体的な活用方法と請求手順を紹介します。
主介護者の負担は想像以上に大きい
厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、主介護者の約7割がストレスや悩みを抱えており、その最大の原因が「家族の協力が得られない」ことです。身体的・精神的な負担に加え、介護離職による収入減、プライベートの犠牲など、主介護者が払う代償は計り知れません。
しかし、多くの主介護者は「自分が我慢すれば済む」と考え、一人で抱え込んでしまいがちです。実は、法律はあなたを守るための権利をしっかりと用意しています。ここでは、主介護者が必ず知っておくべき3つの権利を詳しく解説します。
権利1:扶養請求権 — 他の兄弟に費用分担を求める権利
扶養請求権とは
扶養請求権とは、扶養義務者(兄弟)に対して、親の扶養に要する費用の分担を求める権利です。民法877条は「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定めており、この義務は子ども全員に等しく課されています。
つまり、あなたが主介護者として一人で費用を負担している場合、他の兄弟に対して「自分の分担額を超えた部分を支払ってほしい」と請求する法的権利があるのです。
請求の方法
まずは兄弟間の話し合いで解決を目指します。この際、当サイトのシミュレーターで算出した負担割合を提示すると、客観的な根拠に基づいた話し合いが可能になります。話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に扶養料調停を申し立てることができます。申立て費用は1,200円と郵便切手代のみです。
過去の費用も請求できる
既に支払った過去の介護費用についても、自己の分担額を超えた部分は他の兄弟に求償できます。ただし、請求が遅くなるほど争いが複雑になるため、できるだけ早い段階で行動することが重要です。介護費用の領収書や支払い記録は必ず保管しておきましょう。
権利2:寄与分 — 相続で正当に評価される権利
寄与分とは
寄与分とは、被相続人(亡くなった親)の財産の維持または増加について「特別の寄与」をした相続人が、法定相続分に上乗せして遺産を取得できる制度です(民法904条の2)。親の介護を長期間行った場合、「療養看護型の寄与」として認められる可能性があります。
認められるための要件
寄与分が認められるためには、単に介護をしただけでは不十分で、「特別の寄与」が必要です。具体的には以下の要素が考慮されます。第一に、介護の期間と頻度です。数年にわたる継続的な介護は「特別の寄与」と認められやすくなります。第二に、介護の内容です。日常的な身体介護(入浴、排泄、食事の介助)を行っていた場合は評価が高くなります。第三に、専従性です。介護のために仕事を辞めた、パートに切り替えたなど、犠牲を伴っている場合は寄与分が認められやすくなります。
寄与分の計算方法
療養看護型の寄与分は一般的に「介護日数 × 介護報酬相当額 × 裁量的割合」で算出されます。介護報酬相当額は介護保険における訪問介護の報酬単価(1日あたり約5,000〜8,000円)を参考にします。裁量的割合は0.5〜0.7程度が多く、親族としての通常期待される程度を超えた部分のみが評価されます。
例えば、5年間(1,825日)の介護を行い、1日あたり6,000円の介護報酬相当額、裁量的割合0.7とすると、寄与分は約766万円と計算されます。
権利3:特別寄与料 — 相続人の配偶者も請求できる
特別寄与料とは
2019年7月1日施行の改正民法により新設された制度で、相続人以外の親族(典型的には「長男の妻」)が被相続人に対して療養看護等の労務を提供した場合に、相続人に対して金銭の支払いを請求できる制度です(民法1050条)。
従来、長男の妻が義父母の介護を何年も行っていても、相続人ではないため遺産を受け取れず、極めて不公平な状態でした。特別寄与料はこの不公平を是正するために設けられた画期的な制度です。
請求できる人
被相続人の親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)で、相続人でない人が請求できます。最も典型的なのは相続人の配偶者(長男の妻、次男の妻など)です。ただし、内縁の配偶者は親族に該当しないため請求できません。
請求の手続きと期限
まず相続人に対して協議で特別寄与料の支払いを求めます。協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に処分の請求を申し立てることができます。ただし、特別寄与料の請求には期限があり、「相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月以内」または「相続開始の時から1年以内」に行う必要があります。この期限を過ぎると請求権を失うため、注意が必要です。
特別寄与料の金額の目安
特別寄与料の金額は、寄与分と同様に「介護日数 × 介護報酬相当額 × 裁量的割合」で算出されるのが一般的です。ただし、各相続人の負担額は法定相続分に応じて按分されます。
3つの権利を最大限に活用するために
記録を残すことが全ての基本
3つの権利いずれにおいても、あなたの介護貢献を証明する記録が不可欠です。介護日誌(日付、内容、時間)をつける習慣をつけましょう。スマートフォンのメモアプリでも構いません。また、介護にかかった費用の領収書、立替金の記録なども必ず保管してください。
早めの行動が重要
扶養請求権は介護費用が発生した時点から、寄与分は相続開始時に、特別寄与料は相続開始から6ヶ月以内に主張する必要があります。いずれも「もう少し様子を見よう」と先延ばしにするのではなく、できるだけ早い段階で行動に移すことが重要です。
まとめ:あなたの犠牲は法的に保護されている
主介護者として日々の介護に追われる中、自分の権利について考える余裕がないかもしれません。しかし、法律はあなたの貢献を正当に評価するための仕組みを用意しています。扶養請求権で現在の費用負担を公平にし、寄与分・特別寄与料で将来の相続における正当な評価を確保する。この3つの権利を活用することで、主介護者の負担は大きく軽減されるはずです。
まずは当サイトのシミュレーターで、現在の費用負担の公平性を確認することから始めてみてください。
介護費用シミュレーター 編集部
介護費用の兄弟負担に関する法律知識・実務情報を発信しています。